Prologue

ヴェルモント大陸でドラゴンの創造方法が発見されたのは、
まだ大陸が1つの国にまとまっていた時代―――
若き王女の可愛いワガママが生んだ、まさに奇跡のような偶然であった。

運命の朝。
お城では、王女フェアリスが顔を真っ赤にし、頬を膨らませながら声を荒げていた。
「プリンパフェが食べたいわ!」

フェアリスは聡明で美しい女性であったが、とにかく気が強く、お供の者たちは日頃から手を焼いていた。
しかし、もうこんなことにも慣れっこの彼らは、
いつものワガママか…
と困った顔を見合わせて、ガックリうな垂れた。

「恐れながら申し上げます。
 王女、プリンパフェを用意するには丸1日かかります…。
 隣町のプリンパフェ屋まで往復しても、とてもとてもご朝食には…」

フェアリスの教育係でもあるベル爺が、自慢の髭を揺らしながら、たしなめたが…

「私は今すぐ食べたいの!すーぐーにっ!」
と、王女は頬をさらに膨らますばかりだった。

この日の王女はよっぽど虫の居所が悪かったらしく、
とうとう胸に輝く緋色の宝石を装飾したペンダントに手をかけ、
引き千切って、投げ捨ててしまった。

後に、火の元素と呼ばれ、火の魔法のマナとなったこの緋色の宝石は、
この当時はまだまだ珍しいもので、それまでにたった2つしか発見されていなかった。

奇跡が起こってしまったのは、
その2つの宝石の両方が、この王女の部屋にそろっていたことが原因だ。

もう1つの緋色の宝石は、王冠として部屋の隅に丁寧に飾られていた。

そこにフェアリスの投げた緋色の宝石が、
見事に当たってしまった。

「あっ!」
と誰かが叫んだ。

同時に辺りは、眩しい光に包まれ…
その光が止むと…

小さな赤いドラゴンがそこに生まれた。

お供の者たちは、みんな目をドングリのように丸くし、口を大きく開け、両手を頭の上にあげていた。

時が止まったように、誰も動けなかった。
小さな赤いドラゴンだけが、その止まった時の中をゆっくりと動いていた。
その燃えるように紅い瞳の先には、フェアリスがいた。

呆気に取られるお供の者たちを尻目に、
フェアリスは、臆することなくドラゴンに跨った。

「さぁ!プリンパフェを買いに行きましょう。」

そして口の周りいっぱいにプリンパフェをつけながら、
ドラゴンに乗ったフェアリスがお城に戻ってくるのに、1時間もかからなかった。
ベル爺が丸1日かかると言った距離からすると、奇跡のような時間である。

若き王女の可愛いワガママが生んだ、奇跡のような偶然が…
元素の力を引き出し、
この世に魔法とドラゴンを誕生させた。

フェアリスの名は、紅竜の王女として、
大陸外にも広く伝えられた。

それから100年。

元素は、火に続いて水・土・木が発見された。

ヴェルモント大陸を制した王国は、
6つの小国(ポラリス王国・イースタニア帝国・ミッドランド・ヴァルキア公国・セト連邦・サザンクロス共和国)に分かれたが、
世界の均衡は保たれ、人々は平和に暮らしていた。

竜が争いに使われなかったのも、歴史的な奇跡かもしれない。

その力が余りにも強大であり、
しかも簡単に作られたことから、戦争をするには不向きであったことが、
結果的に戦争抑止につながったのである。

人々は竜と共生する中、新種のドラゴンの配合に夢中になり、
そしていつしか自分が育てたドラゴンで競争するようになった。

人と竜の競技は、世界中の人々を熱狂させ、
これを「ドラゴンダービー」と呼ぶようになる―

そう―
フェアリスがプリンパフェ屋まで往復した道のりが、
最初のレースであったと伝えられている。